梅原大吾はガッツポーズをしない 梅原大吾『1日ひとつだけ、強くなる。』
自分が投稿したAmazonレビューを転載。
フランスのStunfest2015にて。
ももちを下して優勝したウメハラは、すっと立ち上がって静かに握手を交わしていました。
拳を突き上げて喜びを表出させる訳でもない。
トロフィーを受け取った後は微笑を浮かべるだけで、粛々と閉会式をこなしてました。
「もう少し嬉しそうにしたら?」
そんな反応が観客から出てくる程、ウメハラさんには一喜一憂が見られない。
けれど、その佇まいの理由は本書を読むとよくわかる。
一冊目の『勝ち続ける意志力』から今に至るまで、幾度も繰り返されてる主張がある。
それは「大会で燃え尽きるな」。
今回は「燃え尽きるのはアマチュア。同じ姿勢で走り続けるのがプロ」と言い切ってる。
妙な話ですが、ウメハラさんにとって世界大会は"遊び"で、普段のゲームセンターでの練習こそが本番なんだ、と思わされる内容だ。
「大会を目標にしない」
「成長のためにハードルを下げる」
「背水の逆転劇は重要じゃない」
こんな違和感を覚えそうなフレーズでも、一章から六章まで読み通せば、あぁそういうことね……と納得する。
読了後、フランス会場のステージで優勝の余韻を味わってなさそうなウメハラさんを見る。
もう彼は次の日のことを考えてそうで、頭の中では新宿のタイトーステーションが浮かんでるのかもしれない。
ガッツポーズするとしたら、誰の目にも留まらない場面で、ウメハラさんは心の中でやるんだろうな、と。
P.202の格ゲー話が、意外でおもしろい。
日本の大会だと、プレイヤーの参加費を賞金にあてれば賭博罪のおそれがあるし、ゲーム会社が高い賞金を出せば景品表示法に抵触するかもしれない。
だからe-Sports発展のために法律変えなきゃダメだよね……って文脈になりがちですが、ウメハラさんはポジティブな面を語ってて意外だった。
簡潔にまとめると、「賞金が出ないおかげで、格ゲープレイヤーは情報を隠さない。 よって日本の環境は世界一」。
ウメハラさんがEVO2003でキレた思い出や、勝負哲学を一旦捨ててまでインフィルに食い掛かったエピソードは新鮮でした。
ただ、思想的な部分で目新しさがあまりなく。(意志力と勝負論を読書済みの身としては)
あまりに親切な語り口が、かえってウメハラさんの濃度を薄めているように感じてしまった。
個人的な好みと合致しなかっただけで、競技者の思考をのぞける良著です。