小説2015年05月20日配信

プロゲーマー専門学校へ通う学生にとって、良い見本となる 岡崎裕信『銀のプロゲーマー〈2G〉』



自分が投稿したAmazonレビューより転載。


ゲームで友達は作れるのか? と葛藤する人々がメインの今作。
確かに、プロゲーマーを目指す学生に囲まれた環境では、友達付き合いに邁進したくなるんでしょう。


周りのみんなはゲームが共通の話題だし、ゲームで親睦を深めることだってできる。
けれども、その心地よい環境に身を委ねてしまっては、プロゲーマーからどんどん離れていくように思える。


プロゲーマーは孤独です。

ウメハラさんは『勝負論』で、競技にひたすら打ち込むなら、孤独は避けられないと語っている。
「身内しかいない教室で楽しく過ごしたい」と思いがちな局面で踏ん張るからこそ、孤独の先で0.1%の同士に出会える、と。

なのに、五ツ星秋煌は相変わらず独りになる気がなく、ゲームで遊んでいます。

3Dアクションの『Orzソウル』を幼馴染と遊び、MMORPGの『セカンドチャンス』を学園長とテストし、ボードゲームの『今川焼きストリート』を同級生と遊ぶ。 まだ飽き足らず、カードゲームの『バトルモンスターズ』を遊び、アクションゲームの『死神無双』を遊び……遊んでばかりで、ゲームの練習風景が見えてきません。



現役プロゲーマーのももちさんは、『ドガメTV』でe-Sports以外のゲームに興じていて、こちらも見ていて楽しいです。
でもその魅力は、本業の格闘ゲームを真面目にやってる姿があってこそ。


五ツ星秋煌も一応は、RTSの『ラグランジュクラフト』を練習しているみたいなのですが、その練習過程がほとんど描写されておりません。


「午後はRTSを集中して特訓した」といった感じで、とても簡潔。
しかし、五ツ星秋煌が天堂銀華にたまたま勝った時は、嬉しさの描写が詳しくなり始める。


いつ練習してたのかわからない五ツ星秋煌が、偶然と好機によって勝利を収め、勝利の余韻に浸る。

そしていきなり叫び始める。主人公の葛藤がぶっ放される。

「ゲームで友達ができないなんて誰が決めたんだ! 有名になりたいよ! なんで僕の言うこと聞かないんだ!」という調子で。

主人公に耳を貸してくれないのは、ゲームを練習せずに、ゲームで遊んでいるからだと思います。



ところで、ゲーム製作者の吹雪ディアと、五ツ星秋煌が対立するシーンがあるんですが、めちゃめちゃです。
「対戦ゲームで友達できるか?」を軸に対立してるのに、なぜか五ツ星秋煌は「消費者は製作者に軽口を叩いちゃダメ」という方向で自省しちゃう。

吹雪ディアとの会話は、話がかみ合ってないのと、全く議論になってないやり取りが見所です。




本作は、東京のe-sportsプロフェッショナルゲーマーワールドへの進学を考えてる方にお勧めです。
なぜなら、主人公の五ツ星秋煌が、良い反面教師になっているから。

良い見本は天堂銀華ですが、ストイックな天堂銀華ですら、五ツ星秋煌に籠絡されそうになっています。
五ツ星秋煌、恐るべし。




作中で使われる架空の対戦ゲームを、広告風に紹介しているイラストは良かったです。(LAGRANGE CRAFT 価格:49,XX USD 好評発売中ってやつ)

あと、天才ゲーマーの天堂銀華は良いキャラクターなので、吹雪エンターテイメントに引き抜かれた後の話なら読みたいです。


2016年に創設されるプロゲーマー専門学校には、既に数多くの漫画が蔵書されていますし、その本棚にウメハラ本と合わせて本作も置いてみてはいかがでしょうか。注意書きを添えて。

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