小説2015年05月09日配信

プロゲーマー養成学校に在籍しながら、プロゲーマーを目指さない斬新な主人公 岡崎裕信『銀のプロゲーマー』

自分が投稿したAmazonレビューより転載。

2016年に開設されるプロゲーマー専門学校を予見していた作品。
プロゲーマー特進クラスに入学した主人公の五ツ星秋煌が、授業の一環で対戦格闘ゲームに臨むシーンがある。

五ツ星秋煌はマインスイーパー勢のため、格ゲーは全くの初心者ですが、高等なテクニックを成功させて周りを驚かせる。
主人公の潜在能力が判明する場面ですが、そのシーンから五ツ星秋煌の才能がいまいち伝わってきません。

試合中の描写が少ないのです。

まず、ライバルの天堂銀華が、格闘ゲームで五ツ星秋煌を圧倒する。
天堂銀華は『闘神』という格ゲー大会の覇者で、入学してすぐに周りから一目置かれる天才プレイヤー。

実力差が明らかになるシーンなのですが、肝心のプレイ内容がとても簡素。
「ボコボコボコ! ユー・ウィン! 僕のジャスティンは瞬殺された」といった感じで、常人離れした技術は写し出されず、結果で語られる。


相手を瞬殺する形で、上級者の腕前を表現する所も気になります。
一例として、現役プロゲーマーのチョコブランカが、オードリー春日と対戦した番組でのこと。
「素人相手なら10秒で倒せるか?」を趣旨にした試合が始まりますが、結果は23秒でK.O.。

他のプロゲーマーでも、素人相手とはいえ、ストリートファイターIVで瞬殺するのはコンボの仕様的に難しい。(銀のプロゲーマーではSFIVをもじった格ゲーが使われている)


もちろん、実際の格闘ゲームに倣って、正確無比な描写をしなくていいと思います。
ですが、相手を瞬殺したり、体力が1ミリの状態から「ジャストガード」で攻撃を防いだりする描写は、安直さを感じてしまいます。
ジャストガードの場面は、まるでウメハラの「背水の逆転劇」。


プレイヤーの上手さが「反応速度」と「一方的なコンボ」のみで表現されており、具体的にどこが抜きん出ているのかまで踏み込まれていません。


さらに、主人公がプロゲーマーを目指してe-Sportsに邁進する様子がありません。
なのに、第二章の「セカンドチャンス」からは、とたんにMMORPGの描写が増えます。詳しくなります。
作者が書きたかったのは、こっちなんじゃないかって程に。

国内で現在するプロゲーマーは、対戦型格闘とMOBAが中心です。
ですから、プロゲーマー養成クラスの主人公は対戦ゲームを努力するのかと思いきや、MMORPGに夢中になっていく。

さっきまで簡素だった格闘ゲームの描写から一転して、MMORPGの叙述はとても丁寧になり、生き生きとし始める。
本業の対戦ゲームで見せないくらいのやる気を出しています。



その後、幼馴染とのコネによって、五ツ星秋煌は最強プレイヤーとなり、『セカンドチャンス』で無双する生活に突入。
不正に上げられたパラメータで気持ち良くなったり、仲間内でのんびり協力型のゲームに興じたりと、e-Sportsの精神から見事にかけ離れていきます。


読み始めの冒頭は、ゲーミングデバイスが並ぶ教室、ゲームに本気になる教官と生徒が登場して、ワクワクしました。

でも、物語が進むにつれ主人公は楽な道に流れ、プロゲーマー養成学校でゲームを遊ぶという暴挙に出てしまいます。



ただ、作中の『セカンドチャンス』の仕組みは、とても面白い発想です。
初心者が、対戦ゲームに手を出すきっかけを作れるようなアイデア。
運の要素が強いため、e-Sportsのタイトルにならないけれども、競技人口を増やす策として面白かったです。


あと、強キャラを迷わず選び、お金にならないタイトルはプレイしない、天堂銀華のストイックな姿勢も良かったです。

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