映画2014年10月08日配信

クズと言うか、弱い人達と言うか…… 映画『オチキ』

小谷野敦氏が「人間のクズコレクション」とレビューしていたので、とても興味が湧きました。そして見た。期待通り。



"モテキ"に対し、「人間が生きている周期の中でもっともついてない周期」が"オチキ"(堕ち期)だ。


主人公のサクラ(妊娠中。相手は不明)が交際している男との会話シーンから、この映画の魅力はスタート!
男女二人による中々のダメダメ問答を見せてくれて、大変期待感が持てます。
会話のドッジボール! ただし、ぶつけ合うのではなく、お互いの主張を避けまくる!


あれ思い出しました、映画『ドッグヴィル』。



「オレは悪くない」「ワタシは悪くない」「だってそうするしかない状況だったんだもん……」と、保身に回るタイプの言い訳を続けた後の「金! SEX! なすり付け合い!」。



最初は男の方が悪いように見える。
「俺の責任じゃないし」と弁明する姿から、あぁサクラは性質の悪い男にやられたんだ、と。


けれども物語が進むにつれ、サクラがオチていく原因も明るみになっていく。
自業自得でもあるのか、と。




作中にはもう一人の主人公がいる。
芸能スカウトマンの成瀬だ。
成瀬はサクラと違ってわかりやすい。
もう初っ端からわかりやすくて清々しい。


その成瀬がオチキに突入している最中、成瀬が、芸能事務所の社長(女性)を相手に「ずらします! 入れます!」と宣言してから行為に及ぶんだけど、そん時に成瀬が「すんません! すんません!」と謝りながら喘ぐのは彼の趣味なのかしらん?


成瀬は普段から社長にこっ酷く怒られてんだよね。
怒られる度に成瀬は「すんません」と謝ってんだけど、
その日常を踏まえた一種のプレイなんですかね。どうでもいいか。


いや、どうでもよくない。
なぜなら成瀬の謝罪は、見所の一つなんですよ。
ひたすらに滑稽と言いますか、最初に見せた威勢はどこ吹く風と言いますか、アワワワワワって感じ。


この映画は、滑稽な姿を晒しまくる人達を、容赦なく映し続けております。
醜悪なモノを見たい方向け!




そうそう、社長と言えば、芸能事務所に所属するタレントと社長が口論になるシーンがある。


社長「ガキは大人しくお家でお勉強してろっつうの!」
タレント「そのガキ使ってカネ儲けてんの誰? 痛いんですよ。年増女が、いつまで芸能界とか言ってんだよって感じだし」
社長「なんだとヤ○マン!」



まあ終始こういうやり取りが見られる映画でして、しかしここで超えちゃいけない線を超えてるのはタレントの発言かなぁ。その考えだと二人ともいつかオシマイだし。


このシーンだけでなく、全編通して超えちゃいけない線をやすやすと超えていくのが本作の特徴でもあります。
登場人物みんな「これは言っちゃダメ、やっちゃダメ」という感覚すら持ってないかのよう。




途中、一つ気になる点があった。
この映画はオタク的な人物をどう描くんだろうか? と。

主人公のサクラはミュージシャンの卵であり、
少数の濃いファンがライブイベントにやってくる。

その中の熱心なファンは、最前列でケミカルライトを振り応援するのだが……ライブ中にとある人物がブチ切れたことで、ライブはメチャクチャになる。

そこでファンは現実を受け入れた上で応援するのか、それとも怒り狂うのか……。
まあこの映画に救いを求めてもしょうがない。
でも「みんなあんたの歌を聴きに来たんだよ!」は良いセリフですな。




さてこの映画、オチキに入った主人公には容赦がない。
自業自得でスカッとするかもしれないけど……オチキの素質は他の登場人物にもあるように感じた。


なんとか事なきを得た社長だったり、修羅場を傍観して笑ってる事務所のスタッフだったり、中絶費用を用意して一抜けしたライターだったり。


クズと評判の主人公二人は、なんか普通の人に見えてきてしまうのよね。
二人とも初登場時はギラギラ光ってる。
アタシだ! オレだ! という感じ。
けど物凄いスピードで転落してく。


で、そのオチっぷりを見るとクズと言うか、その場の欲望で行動する、普通の弱い人達に見えて来るんだよな~。
叱られればシュンとするし、トラブルが起きれば慌てふためく普通の人。

むしろ、好き放題やったのにノラリクラリとやり過ごした他の人達の方が……主人公の二人は開き直れてないんだよね。サクラはいい線行ってるけど(苦笑)。



ああでも、ラストはみんな吹っ切れるけどね。
最後の最後で改心するかと思いきや、人はそんな簡単には変われない(笑)。
やるのか? 結局ここでもヤってしまうのか? と思って見てたら、結局……。
しかしながらサクラ(木乃江祐希)が顔を見上げて誘惑する所は説得力があるなぁ。エロス。


気持ちがオチる映画かもしんないけど、ラストは一応救いになってるんじゃないだろうか。
どうせクソならクソにまみれて開き直れ! と。




そういや、闇金ウシジマくんの



闇金ウシジマくん第05巻より 将来について聞かれた杏奈の返答


この"落ちる"って台詞、私も意味が汲み取れなかったんだけど(気分が落ちる?)、オチキに入るって意味だったのかなー。

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